【今季最注目!? 第2期岡田阪神から漂う“ガチ感”と可能性】
新型コロナウイルスによって当たり前が当たり前でなくなったのが2020年の春先のこと。その年、1ヶ月に渡ってキャンプ取材を行っていた私からすれば、毎年2月に沖縄にくることは当たり前のことだった。選手たちと同様、2月に沖縄にきて1年をスタートさせる、という心持ちだったが、そのルーティーンはこの2年、叶わず…。まだまだ余談を許さぬ状況ではあるものの、この3年の間にすっかりこなれてしまったPCR検査の陰性証明を片手に、3年ぶりに“帰沖”。東京と20度差という“洗礼”を受けながらも、ひさびさの沖縄取材に、仕事ながらも気分を高鳴らせた。
さて、本題。沖縄にきて私が取材対応を行なったのは、阪神タイガースだ。ここ4年、3位、2位、2位、3位と上位には常に位置しながらも、あと一歩優勝に手が届かずにいるのは知っての通り。記者目線で言えば、そのあと一歩足らないものはズバリ、“勝負勘”であると感じていたのだが、これ以上ないまでの“補強”が行われたのがこのオフだ。岡田彰布監督の15年ぶりの再任である。近年は、指導者としての実績よりも人気を重視するような風潮を感じていたが、勝利を目指す中で、これ以上ない人選だという風に個人的には評価している。
3年ぶりの宜野座村野球場は、2005年以来の優勝を期待する阪神ファンの熱量に包まれていた。コロナ前に比べると、選手とファンの歩く道などの区分けがより細かくなるなどという変化はあったが、いくつもある駐車スペースにギチギチに車が埋まっている賑わいぶりは以前と同様か、それ以上にも思えた。
この3年の間、優勝こそできなかったものの、野手では佐藤輝明といった新たなスター(まだ候補に近いが)が生まれ、投手では青柳晃洋がエースとして申し分のない実績を積み上げた。“見るべき選手”がいるチームは応援の熱量も上がる。この日は紅白戦が行われる予定だったこともあり、球場は超満員だった。
阪神タイガースは常に大きな声援を浴び続けてきたチームだが、ここ数年は熱い声援を受けられずにきた。もしかしたらそれもまた、優勝へとあと一歩届かぬ理由だったのかもしれない。今年は、打撃練習で柵越えなどが出た時に歓声があがり、一方でノックの際などにミスが出たときには、グラウンド上の選手たちにも聞こえるであろうボリュームのため息が聞かれた。このプレッシャーが、あと一歩届いていない目標へとチームを推進する力になりうるだろう。
ここ数年は、矢野燿大監督のもと、チームはポジティブ路線で戦いを続けてきた。その方針の中で、次世代の若い選手たちが台頭したところは評価に値するが、勝ちきれなかった。そこに、コロナを乗り越えて戻りつつあるファンの声援、そして勝ち方を知る岡田監督の就任は間違いなく、チームを前へと向かわせるだろう。注目選手は今年のドラフト1位・森下翔太だ。背番号1を託されたゴールデンルーキーは、外野の一角を目指す立場である。ここ数年、阪神としては打力がもうひとつ足らなかっただけに、彼が新たなレギュラー格として活躍できれば、役者は揃うだろう。
ちなみに、筆者として目を引いたのは同じポジションで競争に挑む小野寺暖だ。2019年の育成ドラフト1位指名で、21年に支配下登録された右の外野手である。このオフはチームの顔である大山悠輔とともに自主トレに取り組み、勝負の年を迎えている。パンチ力ある打撃がウリだが、目についたのは守備の動きの良さだ。現状、期待値という意味ではどうしても森下が先行すると思うが、攻守に活躍できるレベルとみる。仮に森下がうまくスタートを切れなかったとしても、小野寺のような存在が後ろにいるという点で、戦力層はかなり分厚い。
総じて、阪神タイガースのキャンプには、昨年までに足らなかった部分が補完された印象を受けた。外国人の出遅れなど、不安要素もあるがそれを言い出したらキリがない。戦力の準備、体制の組み替えという点は間違いなく、正解を選んでいるとみる。岡田阪神、ぜひ注目してほしい。
季刊『Baseball Times』担当・谷口一馬