【歓声とともに、“取材ルール”も戻ってきた2023。声援が与える力を感じながら。】
近年は新型コロナウィルスの影響もあって、ここ2年は原則的にファンサービスが自粛されていたプロ野球キャンプ。記者として、キャンプ地へ足を運んでも、お目当ての選手の姿を遠くから眺めることしかできなかった。
しかし、今年は各チームともファンサービスを再開。エリアや時間に制限を設けながらではあるが、サインを求めたり、写真をとるファンの姿がどこのキャンプ地でも見かけられた。
それだけでなく、我々取材記者にとって大きかったのは、球団がセッティングした「囲み取材」だけではなく、個別にフリーで選手を取材できる「ぶら下がり取材」が、条件付きで解禁され、それぞれの記者が取材活動を行えるようになった。これまでも独自目線の記事はあったが、今後はより記者の視点が入った記事が増えていくだろう。ファンにとってはこちらも嬉しい出来事ではないだろうか。
そんな足で稼ぐキャンプ取材が復活した今年の春季キャンプ、沖縄では数球団を取材した。
キャンプ初日は中日ドラゴンズ。一軍キャンプの北谷町・・・ではなく、その少し先、二軍キャンプの読谷村へ車を飛ばした。立浪新監督1年目のキャンプだった去年、一軍キャンプでアピールをしていた石川昂弥やブライト健太、そして投手として初キャンプを迎えた根尾昂がそろって二軍キャンプスタートだったからだ。
中でも目を引いたのが、2021年ドラフト1位・ブライト健太。ルーキーイヤーの去年は一軍キャンプに抜擢されるも、そのプレッシャーもあってか表情もどこか元気がないように見えた。しかし。今年は1年間戦える体を求め、オフに体重も増やしてきただけでなく、練習でも最後までとにかく良く声を出していた。個別の特守で、スタンドのファンから「あと1球!」の声が飛ぶと「頑張ります!」と返事を返すなど、気持ちの余裕もあるように感じられた。そうした効果もあってだろうか、練習試合でもホームランを連発し、一軍帯同が決定。悔しい思いをした去年のリベンジなるか。このまま開幕まで突き進んでほしいところだ。
次に訪れたのは昨年のセ・リーグ優勝、東京ヤクルトスワローズがキャンプを行う浦添市民球場。第2クールからは3年連続となる球団OB・古田敦也氏が臨時コーチとして、捕手陣への指導を行っていた。
あいにく天気が悪く、取材制限がある室内練習場での練習がほとんどだったため、練習内容はわからなかったが、今年も「捕手で勝つ!」という強い意志を選手たちに伝えたと会見では話していた。
そんな中、もう一つの古田イズムを感じさせる場面に遭遇した。降っていた雨が止み、WBCを控えている中村悠平以外の松本直樹、内山壮真、古賀優大の3捕手が、個別練習での罰ゲームを、浦添名物「階段のぼり」で行うことに。そこで古田臨時コーチは3選手にこんなノルマを課したのだ。
「階段5往復!そして最後にカメラに向かって、なんかパフォーマンスをしろよ!ヤクルトの伝統だから!」
一見、マスコミへのサービスかとも思ったが、こういう考え方もできるのではないか。
プロ選手は注目されてナンボである。そして注目されることで、選手に自覚と責任が生まれる。それだけでなく、パフォーマンスを考えることで、頭も使わせることができる。これも古田イズムの注入なのではないかと。
昨今のコロナ禍によって、選手たちは取材されることが極端に減ったが、露出がないことで精神的な負担が軽減されたと感じる選手もいるだろう。しかし、一軍の試合なら多くの観衆の前に立ち、必要以上の緊張感に晒されながら、自らのポテンシャルを最大限に発揮できなければ、プロとして生き残っていくことはできない。
古田臨時コーチがそこまで考えているかはわからないが、何気ないこの罰ゲームに、そんな意味が込められているとしたら・・・、今年もヤクルトは侮れないのではないか。引き揚げる時、ファンに手を振りながら笑顔を振りまく古田氏の横顔を見ながら、そんなことを考えた1シーンだった。
そして2月中旬には、3年ぶりにロッテがキャンプを行う石垣島へ。この日は楽天モンキーズとの練習試合が行われるとあって、スタンドが文字通りの超満員。台湾プロ野球特有のチアリーダーたちの応援で、声こそ出さないものの、一緒にダンスを踊るなど大いに盛り上りを見せていた。
ヤクルトやDeNAもそうだったが、今年は選手の自主性を求める球団が多く、ロッテもそのうちの1チーム。全体練習開始が9時からと他のチームより1時間早かったが、終了も14時前と終わるもの早い。ただここから、それぞれが課題と向き合う自主練習が待っている。結果を出すも出さぬも全て自分の責任。大人扱いされている分、その責任を果たすべく、各々がそれぞれの場所で課題と向き合う時間を多く過ごしている印象を受けた。
これまでならば、練習が終われば、すぐにタクシーに乗り込みホテルへ戻るところだが、室内練習場の前に待つファンにサインする選手が数多く見受けられた。思えば3年前、佐々木朗希のルーキーイヤーとなったこの年は、多くのファンが石垣島に訪れ、今回のように室内練習場前でサインの列を作っていた。ようやく戻ってきたその光景を見ながら、失っていたこの3年間がどれだけ長いものだったのかを、改めて考えさせられた。
ファンあってのプロ野球。去年も有観客キャンプになったことで、そのことを強く感じた選手もいたが、今年はよりその度合いが強かったのではないだろうか。先に書いたブライトだけでなく、ファンの声援が力になり、厳しい練習を克服できた場面も少なくはないだろう。その思いに応えるべく、この2月に沖縄で流した汗がどう実を結んでいくのか。その答えを各選手が、まもなくグラウンドで見せてくれるはずだ。
担当・岩国誠